機能遺伝子のmRNAと16S rRNAを標的としたFISH法による微生物の同定

近年、微生物の反応を触媒する酵素の遺伝情報である機能遺伝子の塩基配列から微生物叢の解析が行われています。これまでに、機能遺伝子の塩基配列情報を利用したクローニング解析から、同一機能を保有する微生物群を機能遺伝子により網羅的に検出し、更にReal-time PCR法により菌数の変遷をモニタリングする技術が報告されています [1, 2, 3] 。微生物機能を利用した解析が行われる中、機能遺伝子による解析結果と16S rRNA遺伝子による解析結果を一致させる試みが行われています。その方法の一つとして、オリゴヌクレオチドプローブにより微生物の16S rRNAを、ポリヌクレオチドプローブにより機能遺伝子のmRNAを検出し、顕微鏡の同一視野内で一致させる方法が報告されています [4] 。これら解析結果を一致させる事により廃水処理リアクター内に存在する硫酸還元菌や脱窒素細菌またはメタン生成細菌等の微生物群に対して、機能を発揮している優先菌種の把握に活用できる事が期待できます。しかし、ポリヌクレオチドプローブは、その塩基の長さから、 塩基配列のミスマッチを識別する為に、厳しい実験条件の設定が必要であり、実験的な特異性を得る事が難しい特徴を持ちます [5] 。このため、廃水汚泥のような複雑な菌叢には対応が難しいと考えられ、より特異性の高い手法の適用が望まれています。そこで本研究では、廃水処理リアクター内に存在する微生物群の機能と系統分類のFISH法による一致を、塩基配列の選択制の高い手法により実施する事を目的としました。実験的な特異性の高いFISH法として、オリゴヌクレオチドプローブを用いたFISH法を選択しました。しかし、mRNAは細胞内での存在数が極めて少ない為、既存の方法では検出に十分な感度を得ることができません。そこで、高感度FISH法であるCatalyzed reporter deposition (CARD)-FISH法によりmRNAを検出しました (以下mRNA-FISHと記す) 。このCARD-FISH法は、 Bobrowら [6] によって発表され、そしてSchönhuberら [7]とLebaronら[8]に同時期に環境微生物への適用がなされました。本研究室で使用しているCARS-FISH法は、Kubotaら[9]が、廃水処理リアクターへ適用し易いように改良した方法を適用しています。 

本研究では、 mRNA-FISHで検出する機能遺伝子のmRNAとして硫酸塩還元菌群が共通して保有するapsA遺伝子のmRNAを選定しました。硫酸塩還元菌は、有機物を分解する際に、硫酸塩をAdenosine-5′-phosphosulfate (アデノシンホスホ硫酸 (APS) ) スルフリラーゼによりAPSに、APSをAPSリダクターゼにより亜硫酸へ、亜硫酸を異化型硫酸還元酵素によって硫化水素に還元します。apsAとはAPSを亜硫酸へ還元する酵素の一部をコードする遺伝子です。mRNA-FISHにより検出されたポジティブなシグナルは、硫酸還元菌の16S rRNAを標的としたFISH法によるシグナルとの一致を試みました。

これまでの実験では、廃水処理リアクターへmRNA-FISHが適用可能であるかを確認する実験を実施しました。実験内容は、廃水処理リアクターの汚泥をSulfateとLactateを主成分とする培地にて培養したサンプルへmRNA-FISHを適用しています。結果をFig.1に示します。サンプル内からmRNA-FISHにより検出されたポジティブなシグナルが確認されました。また、これらシグナルと16S rRNAを標的としたFISH法によるポジティブなシグナルを比較したところ、mRNA-FISHにより得られたポジティブなシグナルは、16S rRNAを標的としたFISH法により得られたシグナルと全て一致していました。これにより、廃水処理リアクターへmRNA-FISHが適用可能である事が確認できました。今後は、実際の廃水処理リアクターへの適用を目指し、実験を進めていく予定です。

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Fig.1 プレ培養した廃水汚泥へのmRNAを標的としたFISH法と16S rRNAを標的としたFISH法の同時検出。A: DAPI染色視野。B: 16S rRNAを標的としたFISH法によるシグナル (赤 (Cy3)), mRNAを標的としたFISH法によるシグナル (黄 (FITC))。

参考文献
[1] 阿部憲一, 荒木信夫, 井町寛之, 角野晴彦, 山口隆司, 西尾尚道 : 硫黄の酸化還元サイクルを活性化した下水処理システム内の硫酸還元機能遺伝子の解析と定量, 水環境学会誌, 28(8) , pp. 501-507, 2005
[2] 塚本雄介, 荒木信夫, 長野晃弘, 山口隆司, 原田秀樹 : 都市下水処理流動床型脱窒素リアクターにおける優占脱窒素細菌の特定と機能遺伝子の定量, 水環境学会誌, 27, pp.791-796, 2004
[3] 押木守, 荒木信夫, 竹林賢, 長野晃弘 : 溶存酸素濃度および基質のC/N比が脱窒素汚泥内のnirS mRNA転写量に及ぼす影響, 水環境学会誌, 28(11), pp. 683-687, 2005
[4] A. Pernthaler, R. Amann : Simultaneous Fluorescence In Situ Hybridization of mRNA and rRNA in Environmental Bacteria, Applied and Environmental Microbiology, 70, pp. 5426-5433, 2004
[5] W. Ludwig, S. Dorn, N. Springer, G. Kirchhof : PCR-Based Preparation of 23S rRNA-Targeted Group-Specific Polynucleotide Probes, Applied and Environmental Microbiology, 60(9), pp. 3236-3244,1994
[6] Mark N. Bobrow, T. D. Harris, K. J. Shaughnessy, G. J. Litt : Catalyzed Reporter Deposition, a Novel Method of Signal Amplification Application to Immunoassays, Journal of Immunological Methods, 125(1-2), pp. 279-285,1989
[7] W. Schönhuber, B. Fuchs, S. Juretschko, R. Amann : Improved Sensitivity of Whole-Cell Hybridization by the Combination of Horseradish Peroxidase-Labeled Oligonucleotide and Tyramide Signal Amplification, Applied and Environmental Microbiology, 63(8), pp. 3268-3273,1997
[8] P. Lebaron, P. Catala, C. Fajon, F. Joux, J. Baudart, L. Bernard : A New Sensitive, Whole-Cell Hybridization Technique for Detection of Bacteria Involving a Biotinylated Oligonucleotide Probe Targeting rRNA and Tyramide Signal Amplification, Applied and Environmental Microbiology, 63(8), pp. 3274-3278,1997
[9] K. Kubota, A. Ohashi, H. Imachi, H. Harada:Visualization of mcrmRNA in a Methanogen by Fluorescence In Situ Hybridization with an Oligonucleotide Probe and two-pass Tyramide Signal Amplification (two-pass TSA-FISH), Journal of MicrobiologicalMethods, 66, pp. 521-528, 2006

大塚勇輝

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