新規下水処理システム開発

研究背景
 WHOの報告によると、2000年における上下水道設備の衛生に起因する下痢や他の疾病 (住血吸虫症、トラコーマ、腸内寄生虫による感染症など)による死亡者数は220万人以上にのぼり、その大半は5歳未満の乳幼児であると推定されております。そこで、2002年の持続可能な開発に関する首脳会議 (WSSD)では、下水道設備を利用できない人の割合を2015年までに半減させるという目標が掲げられ、健康リスクを低減することが図られています。しかし、経済的に脆弱である途上国では、なによりも経済発展が優先され、活性汚泥法に代表される先進諸国の排水処理技術の導入が進まない現状であるため、途上国に適用可能な低コスト型排水処理システムの開発が望まれております。
 一方、経済発展を成し遂げた先進諸国では、適切な衛生施設の整備は進み、快適で安全な水環境が構築されてきました。しかし、日本における下水処理にかかる費用を見てみれば、下水処理場で消費される電力は約70億kwhと国内消費量の0.7%におよんでおり、エネルギーを大量に消費しております。このため、国家の財政を圧迫するとともに、発電時には大量の二酸化炭素を放出することから、地球温暖化の促進に寄与している可能性があります。よって、美しい水環境の保全とエネルギー消費の削減を満足する、二酸化炭素の排出を削減した省エネルギー型排水処理システムの開発が必要であると考えます。
 そこで、我々の研究グループは、省エネルギー型下水処理技術として上昇流嫌気性汚泥床 (Up-flow Anaerobic Sludge Blanket : UASB) に着目し、研究を行ってきました。UASBは高密度で沈降性の高いグラニュール汚泥で廃水処理を行うことで高速処理を可能としました。UASBは中高濃度の有機性産業廃水処理への適用を中心として大きな成功を収めております。しかし、UASB単独では河川への放流基準を満たすだけの処理水質が得られないため、適切な後段処理法が必要とされてきました。
 そこで、我々の研究グループは新規の下水処理技術として下降流懸垂型スポンジ (Down-flow Hanging Sponge : DHS) を開発しました。DHSは、スポンジを汚泥の保持担体として空中に吊し、上部から散水供給された排水がスポンジを流下する際に、スポンジに生息する微生物によって浄化が進行する仕組みです。これまでの研究により、パイロットスケールDHSリアクターの連続処理実験では、優れた処理水質を獲得できることが明らかとなりました。これは、DHSのスポンジ内に活性汚泥法の5~10倍濃度で微生物を保持し、流下水がそのスポンジ内に浸透することで良好な接触効率が得られ、酸素を空気中から自然に供給できることが寄与していると考えられます。しかし、UASB、DHSシステムは栄養塩を除去する能力を有しておりません。そのためシステムの後段に栄養塩を除去する高度処理システムを導入する必要があります。

研究内容
 栄養塩除去システムの開発として、我々の研究グループでは脱窒性ポリリン蓄積細菌 (Denitrifying Polyphosphate Accumulating Organisms : DPAOs) に着目しました。DPAOsは嫌気条件下で菌体内のリンを放出し、無酸素条件下で嫌気条件下での放出量以上のリンを蓄積するため、液中のリンを除去することができます。また、リン蓄積にはDHSの硝化反応によって生成された硝酸が電子受容体として使用されるため、エアレーションを必要としない代謝によって液中の窒素を除去することができます。
 DPAOsはポリリン酸蓄積細菌 (Polyphosphate Accumulating Organisms : PAOs) を用いた従来の生物学的リン除去システムと比較し、エアレーションを必要としないため省エネルギーであり、余剰汚泥発生量が少なく、必要となる有機物量が少ないといった利点があります。DPAOsを培養するためには嫌気・無酸素サイクルが必要となり、我々の研究グループでは嫌気・無酸素回分式リアクター (Anaerobic/Anoxic Sequencing Batch Reactor :A2SBR) を開発し、UASB+DHSシステムの後段に設置し、A2SBRによる栄養塩除去性能の評価を行っております。また、本リアクターでは処理の工程でDPAOsの体内にリンが高濃度に蓄積されるため、汚泥からのリン回収を検討しております。

小林智裕

研究テーマ
・高度処理を含めたUASB-DHSシステムの下水への適用
・硫酸塩還元反応を生かしたUASB/DHSシステムによる実下水の処理特性評価